「坂田一男展 前衛精神の軌跡」(岡山県立美術館 )を鑑賞しました。
明治22年岡山市に生まれた坂田一男 は、上京して川端画学校で裸婦を描き、パリでレジェ にキュビズム を学び、帰国後中央画壇との接触を断ち倉敷市玉島で活動し、戦後A.G.O.(アヴァンギャルド岡山)を組織して抽象絵画を制作しました。
日本らしさを感じさせない教科書的なキュビズムの作品であり、日本で正確にキュビズムを理解した最初の日本人かもしれません。極端に言うと、特徴のない作品に感じられるかもしれません。しかし、おそらく坂田は美を賛美する視点ではなく、科学者の冷徹な視点で物事を見ようとしていたのだと思います。それまでの芸術は美の追求であったものが、20世紀美術に至って芸術は、科学のように、物事の本質を見透かす真理の追究に変わったのだと思います。なので、「偶然は作者自身のものではない」と言って、的確・正確に物事を捉える科学的普遍的視点を重視して偶然を排除しようとしていたのだと思います。また、シンボリズムを感じさせない、画面を二分して中央に壷(円錐)を配置したり、工具を標本的に並べるように配置する「メカニック・エレメント」などもそういった静的な科学的視点を感じられます。
また、思い切り良く中央画壇と距離を取るものの、小さく閉じこもるのではなく、前衛芸術を普及するために、世界を志向する団体を主宰したりするなど、普遍的な世界への眼差しが感じられます。
いうなれば一地方に過ぎないにもかかわらず、キュビズムを正確に理解し、中央に対して対等に距離を保って、さらに世界を目指す高い志を持つ人物が岡山にいたことは、地方の若い芸術家たちにとって、とても勇気づけられることだと思います。