2007年11月23日

千里馬スーパーファイトVol.26


「千里馬スーパーファイトVol.26」(神戸ファッションマート)を観戦しました。

「日本バンタム級タイトルマッチ 三谷将之 vs菊井徹平 」を含むプロボクシング全17試合が、正午から午後8時まで8時間に渡って行なわれました。休憩が30分だけでとても疲れましたが、迫力満点でとても楽しく観戦できました。出場選手たちは全員きっちり身体を作ってきて格好良かったです。それにしても、生で観戦すると、殴られるととても痛そうでした。バシッというグローブの音の中にゴツンという音が混じっていたり、空気中に血しぶきが舞い上がり、その血が相手選手の身体にも飛び散ったりして凄まじいものがありました。ダウンした選手が立ち上がったときのフラフラ感や試合後に帰り道で崩れ落ちたりするのはとても痛々しいものがありました。リングの上には、文字通り生命を削る、恐ろしいまでのリアリティがありました。

今回の試合は、全般的に、身長差のある対戦が多かったように思います。基本的には、身長の高い選手はジャブを生かしたアウトボクシングで戦い、身長の低い選手は懐に潜り込んで早い回転のフックを浴びせる接近戦の戦いだったと思います。アウトボクシングは先の先を取るジャブで、相手の出足をジャブでひるませた所をステップインしてワンツーを入れて相手を崩してゆく。一方、インファイトはフットワークやジャブを使って相手の牽制をかいくぐって懐に潜り込んで、接近戦に持ち込み乱打戦の中で高速回転で相手をなぎ倒すといった戦略があると思います。今回、意外だったのは、小柄な選手がなんとか潜り込んだにもかかわらず、大柄な選手の方がフックの回転が速くて、小柄な選手は思うようなインファイトができなかったことが多いように感じました。

三谷選手vs菊井選手もそのような戦いになったと思います。菊井選手が多彩なパンチで切り崩してインサイドに攻め入ろうとするのですが、三谷選手が巧みにかわしてなかなか許しませんでした。そして、何とか菊井選手が懐に入った場合でも意外にも三谷選手の回転が速くて、せっかく接近戦に持ち込んだものの逆に菊井選手は押されたように思いました。結果、判定で三谷選手が勝利しました。

他の選手たちの試合もなかなか凄まじく、けっこう出血していました。岡山出身のボクサーが瞼から出血してドクターチェックを受けていましたが、グローブを突き上げて「まだまだ、やれるでぇ!」と掛け声を挙げたときには、見ているこちらも熱くなりました。とにかく、みんな、ボクシングに対する態度が真摯で、スポットライトを浴びたリングが生半可な気持ちでは近寄ってはいけない神聖な場所のように感じられて、神々しく見えました。

ただ、プロボクサーというのは、プロスポーツ選手でありながら、ボクシングだけでは生活できません。働きながらスポーツに取り組んでいるので、どうしても生活が大変なようです。ただでさえ過酷なトレーニングな上に、経済的にも厳しい環境を強いられるようです。ですので、リングの上だけでなく、トレーニングでも実生活でもボクサーはもがき(=STRUGGLE)ます。まるで剥き出しの生命を燃やすように…。ただ、ほんのひと時、世界チャンピオンになった時、初めてその苦労が一時報われるようです。とても過酷で孤独な世界のようですが、しかし、まったく人情がないわけでもないようです。過酷な選手生活をまるで修行僧のようにストイックに戦い続けてきた元ミドル級世界チャンピオン、 マービン・ハグラー は言います。

諦めずに自らの目標に向かって努力していたら、
いつか何かが起こるもんさ。
昔、トレーナーに言われたよ。
お前がキューキュー軋む音を立てて車を走らせていたら、
きっと誰かがオイルを入れに助けにきてくれる。
人生とは、そういうもんだって。

林壮一 「マイノリティーの拳 」から マービン・ハグラーの言葉より抜粋)

格好悪くても貧しくても、がむしゃらにもがいたり、むきになって燃焼したりすることでリアルな生を生きることで、それが周囲の人々をも熱くするのかもしれません。醒めた大人になって忘れてしまいがちな、そんながむしゃらさを今回のボクシングは思い出させてくたように思います。ただ一方で、危険を顧みずに人生を賭けて殴り合う彼らは、ボクシングジャンキーなんだろうなあとも思ったりもしました。