2006年4月10日

H.Tさんインタビュー


感覚が大事なのは、共感が大事だから
―― H.Tさんの詩は、一見、不条理詩のように不思議に感じられますが?
ワザと自分で意味をボヤかしていますね。その方が広がるでしょ。勝手に解釈する人がいて。
―― 詩にメッセージを決めているわけではない?
メッセージというのは言葉のことですよね。言葉は無いです。僕が表したいのは触感ですね。
―― 感覚として残るものですよね。そこで目指すものとは?
目指すものというのは人との「共感」ですね。わかります?感覚は誰もが持っているでしょ。すると、共感できるんですよ。共感すると人は救われるんですよ。たとえ、それが残酷な共感であっても、汚い共感であっても、共感すること自体で人っていうのは救われるんですね。だから、僕は感覚を主体とした表現を主にしてやっています。もちろん好みもありますが、メッセージと感覚だったら、僕は感覚が好きですね。
―― ちなみに、どういった感覚が好きなんですか?
僕、溶けるのが好きなんですよ。例えば、氷が溶けたりするでしょ、蝋燭が溶けたりするでしょ。ああいうの見ると僕、すーごく楽しいんですよ。何時間でも見てられるんですね。あと、固まるのも好きなんですよ。だから、氷を溶かしては固めて、固めては溶かしてというのよくやってましたね、子供の頃。
―― H.Tさんにとって、お笑いとは何ですか?
サービスですね。メッセージ性を強く求めてる人は感覚からは遠いでしょ。だから、そういう人には「こいつはもう笑わせたいだけなんだ」と思ってくれたらいい。それで喜んでもらえたらいい。
―― 昔、お笑い芸人を目指していたわけじゃないですよね(笑)
じゃないですけど(笑)、いや~、失語症だったんですよ、僕は。学校では笑いを取ることでしか、人と接触することができなかったからかもしれません。不得手だから自分の存在を確かめたかったから。笑いはいくつかの手段の中のひとつ。だから、いくつも手段を用意してるのは、逃げかもしれない。


演劇から詩へ!
―― H.Tさんは大学時代演劇部でしたが、演劇をはじめたきっかけは?
高校時代に夜中に受験勉強してるときに、テレビでつかこうへいさんの舞台をやってて何時間も釘付けになりましたね。今までの演劇と全く違ってました。「こりゃ違う!」と。
―― 何がそんなに他の舞台と違ったの?非日常的というか、セリフのテンポやセリフのボリューム、役者の演技・表情などですね。
―― つかこうへいさんは熱い話が多いような気がしますが、熱いのが好きなの?
熱いの好きなんですよ~!「あしたのジョー」とか好きなんですよ!あと、「北斗の拳」とか大好きですよ(笑)立ち読みしてて涙流してたら、バイトの人におまえは馬鹿かと言われました(笑)。
―― どんなシーンで涙流すの?
サウザーとか(笑)。「愛ゆえに哀しみ!愛ゆえに苦しみ!ならば!愛などいらん!」、そこでケンシロウが「ならば、俺は愛のために闘おう!」(笑)。
―― もしかして、好きなキャラクターはサウザー?(笑)
サウザーって俺だなあって(笑)
―― スラムダンクとかも好き?
三井が大暴れした後に安西先生に「僕はバスケがしたいです!」、泣けたなあ(笑)・・・でも、現実はそんなに甘くないんですけどね。だって三井君は練習していないのに、あんなにバスケがうまいじゃないですか・・・。
―― 結局、演劇をやっていたのは、何年間ですか?
3年間ですね。大学入ってすぐの頃は演技なんて知りませんでしたから、裏方やってました。だから、役者をやってたのは3年間ですね。
―― 大学の演劇部を卒業した後は?
一人でやってましたね。それから、東京に役者志望で試験を受けに行きましたね。俳優座。連れの親友が合格して自分は落ちました(笑)。それから、書くものも認められなくって・・・。
―― 演劇で表現したいものは何だったんですか?
演劇って合議制なんですよね。自分がやりたいことができないんですよね。だから、一人で脚本を書いて、一人で役者やって・・・。
―― 演劇自体に対する熱は冷めたわけではない?
冷めてはいないけど、今は贅肉ついっちゃってダメかも。

H.Tさんにとっての詩とは、リーディングとは
―― H.Tさんにとって、詩だけではないリーディングとは何ですか?
僕がやっているのは芝居ですね。一人表現ですね。
―― H.Tさんは自分の表現は詩ではないとよくおっしゃられていますが?
そうですね・・・。
―― H.Tさんにとって、詩の定義はどのようなものですか?
紙の上だけでも成立する、リズムや音韻なりを使った言葉を使った表現方法が詩なのかなあ。
ただ、自分の場合は原稿用紙の上だけでは成立しないと思うんです。体と声を通してでないと伝わらないと思うんですね。
―― あの不思議な身振り手振りは意識してやってるんですか?それとも無意識で出ちゃうのかな?
秘密です、企業秘密です(笑)。
―― それは詩のライブを大切したいってことですよね?
そうですね。だから、機能していないリーディングを見ると紙だけ回して見てもらえばいいじゃないか!と思うんですよ。何でわざわざ声を出して、何で顔を出して読むの!?と。
―― H.Tさんのリーディングは原稿も持たないし、完成度が高いですよね。
いや、満足してないんですよ。また、満足しちゃってもいけないと思っているんですよ。


創作について
―― どんなときに詩は生まれてきますか?
夏目漱石の「夢十夜」という作品の中で運慶が金剛力士像を彫っていて漱石が自分でも彫れるかなと思って彫ってみるが、うまく彫れないんだ。それで友達に聞くと、あれは彫っているんじゃないんだ。元々、あらかじめ中身が詰まってるものを出してるんだって。それを掘り出してるだけなんだ。それと同じですよ。
―― あらかじめ何かあるわけですね?
何某かあるんでしょうね。
―― 出てきた言葉に対しては推敲はするの?
推敲しますよ。携帯電話にメモ帳があってメモして言葉を重ねてゆきますね。こればっかりじゃあないですけどね。
―― 書くための決まったスタイルは特にない?
特にないですが、それはダメだとプロの書き手さんに怒られました。岡山に滞在していたプロの書き手さんに助けてもらったんですよ。毎日、赤いマジックで文章書いて送ってたんですよ。そしたら、呼び出されておまえは馬鹿かと、でも、文章はいいよって。それで自信を持てて助けられたんですよ。
―― 好きな文章や文体とかはありますか?
文体とかは意識的にはないですね。無意識的にはあるかもしれないですね。ただ、意識してはないですね。
―― 好きな詩人は?
町田康、まどみちお、峠貫吉。あと、谷川俊太郎。
―― 好きな作家は?
井伏鱒二、内田百間、稲垣足穂ですね。
―― ばらばらな気がしますね?何か共通点はありますか?
感覚。全部、感覚と言うと、ちょっと卑怯ですが・・・。分析してもわからない、ひっかかる何かがある。何か、おもしろさが伝わってくる。感覚派とメッセージ派の両極端に分けても、すごく良い感覚派の詩は伝わると思います。良い詩は誰にでも伝わります。


言葉を解き放ってあげたい・・・
―― メッセージやイデオロギーなどに何か強い反発心を感じますが?
ありますね!イデオロギーだけに絞られるのは言葉がもったいない気がする。言葉が泣いている気がする・・・、表現が泣いている気がする・・・。だって、そいつのものになっちゃう。言葉は舞台に立たしてあげて、演出してあげるものでしょ。自分が調教して犬みたいに首輪につなぐものじゃないでしょ。
―― H.Tさんにとって、言葉って生き物みたい?
そうですね。鳥ですよね。空を飛ばしてあげたいじゃないですか。カゴに閉じ込めていないで。だから、メッセージって鳥カゴに見えちゃうんですよね、僕は。
―― 昔は結構、大変な時期もあったみたいだけど?
昔は、あしたのジョーみたいでしたね。力石徹を殺した後のジョーみたいに死に場所を探していましたね・・・。死ぬためにリングに上がっているジョーみたいな・・・。
―― H.Tさんの死生観は?
人間同士は繋がっていると思います。人間って遺伝子が違うだけで、形が違うだけで、下で繋がっているのかなあって小学校の頃から感じてます・・・。だから、共感もあるのかなあって。
―― H.Tさんにとっての、詩のボクシングとは?
あれは意義があるでしょ!今のところ、詩に需要がないでしょ。詩の需要を広げるための手段ですよ!「詩に需要はあるのか!?」って言った人がいましたが、ある訳ないですよ!
―― ・・・H.Tさんは普通でいう詩をやるつもりはない?
やるつもりはないですね。まあ、楽しみにしていてください!
―― 今後の予定は?
働きつつ、活動を続けてゆきますよ。
―― 最終目標は?
とりあえず、ずっと表現に関わっていたいですね・・・。
「『誰がしてくれる!?』という行為は、きっと子が気付いてくれる」って。僕はそれをしなければならない、したいんですよ。
(2004.12.23 市内某所にて収録)