あなた虫
あなた虫
あなたのつくった花菜のサラダ
バナナの皮のお皿でたべた
花菜の端(はな)についていた
あなた模様の小さなたまご
あなた虫の たまご
あたしは少しためらった
あなたは「お食べなさい」っていった
あなた色したあなたのたまご
花菜といっしょにのみこんだ
あなた虫 あなた虫
あたしのおなかのなかでかえった
あなた虫 あなた虫
あたしのおなかでのたうって
2匹に5匹に100匹にふえた
あなた虫はわがままで
あたしにあれこれ文句をいった
ならべたてたらきりがなく
「だらだらするな」
「なまものくうな」
「あたら若い身むだにはするな」
あなた虫 あなた虫
あまりにふえた ふえすぎた
おなかはまるくふくらんで
虫くだしで ひり出したら
あなたはぬっと顔だした
次から次へととびだした
あなた虫
あまたのあなたの流れ星
肌色の旗がたなびくみたい
あなた虫 あなた虫
あたしの中からいなくなった
あなた虫 あなた虫
あなたのいない空っぽからだ
元のあなたをさがしてみたら
山のあなたの空にはあなた
とだなのとびらをあけたらあなた
どこをみても
あなただらけのまんだらの
春にはあなた
夏にはあなた
秋にはあなた
冬には――そなた?
あなたは田中か山中か
はたまた杉田か平下か
ひとりのあなたはすべてのあなた
すべてのあなたはみんなバラバラ
あなた虫 あなた虫
たった一人のあなたなんて
たぶんどこにも
いないのだった