2006年12月24日

第12回大朗読


「第12回大朗読」 を鑑賞しました。


詩の朗読会でこれほどまで充実した朗読会は今までにないのではないでしょうか。詩の朗読というのは、けっこう聴く側も疲れるものですが、この朗読会では疲れることがありませんでした。こんなことはとても珍しいと思います。それは言葉の力で、ありありとした新しい世界を現出させたからだと思うのです。

以下、感想です。

郡さんの詩は殺伐とした現代の文明社会での生活(その象徴としてのサラリーマン)と森の奥深くというメタなリアリズムを感じました。一瞬、ハードボイルドかもと思ったりしましたが、そうではなくて、自分自身もクリティックする、究極の批判精神を目指しているように感じました。私小説のように正面から飽くなき内面への探求を目指した日本の自然主義にも似た、自分自身にも向けられる例外なき批判精神がなせる言葉のように感じられました。

ユキオさんの詩はエロティックでした。性を自然な営みなどとして礼賛するのでもなく、また、逆に否定するわけでもなく、現代の性を有り様のままに受け入れて表現しているように感じられました。(ちょっとフェミニズムが入っていましたが。)資本主義社会では、基本的に欲望を抑圧するものはなく、お金さえあれば、人々の多様な欲望に応えられるようにシステムが構築されようとしています。むしろ、宣伝広告などで欲望を煽ってどんどん拡大させようとさえしています。社会システムはどんどんシステム強化されて、人間は家畜化されていっているように感じられます。そこでは、性はエンジョイされる娯楽になっているやもしれません。ユキオさんの詩からは、娯楽や退廃に至る前の抑圧時代の、あるいは、抑圧すら娯楽化した、抑圧された性の快楽が感じられました。抑圧された性を解放する時代では、過激な性表現は称揚されたとは思います。でも、今は欲望を拡大する資本主義社会の時代…。時代には合っているのかもしれません…。(対照的にイスラム社会はとても禁欲的です。)個人的には、世の中、禁欲的であってほしいです。

加藤さんの詩は言葉へのフェティッシュを感じました。3人でパートを分けて朗読されました。言葉の断片たちがそれぞれ生命を持っているかのように感じられました。詩人の言葉への高感度な感受性がなせる詩なのだろうなあと思いました。

東井さんの詩は「クソ!」の詩でした。ビル・エヴァンス を知らなかったのですが、圧巻でした!今年、聞いた朗読の中で最高の詩のひとつでした!現実と本質!フィクショナルな言葉たちによって、日常が剥ぎ取られて、そして、むき出しのリアルや本質が見えたように感じられました!こういう作品を創作して表現できるというのは、驚愕で絶句しました!圧倒されました!

秋山先生の詩は輪廻や祖霊や金に関する詩のように感じられました。六条御息所 は好きなので、そのくだりは良かったです。語彙がとても豊富でした。

岩本さんの詩は戦艦大和を題材にした詩でした。プロジェクターの映像をバックにした朗読でした。弟が兄亡き後、兄の嫁と結婚するくだりが、リアルを感じました。

飛び入り朗読も皆さんレベルが高く、驚きました。以前は飛び入りは素人参加に感じましたが、何だか皆さん玄人に見えました。中には素人ならではのエネルギッシュな表現もありました。修行時代の素晴らしさです!

全体として、冒頭にも書きましたが、全然飽きさせない、あっという間の2時間でした。このクオリティの高さは驚きです。若者の朗読詩人たちよりも斬新だったりしますし、技巧は円熟していて聴く者に見事な効果を感じさせます。他県の朗読会を知らないのでわかりませんが、全国的にもかなりトップレベルな朗読会ではないかと思います。